こどものおいしゃさん日記

何だってこんなことになってしまったのだろう

iPadは買ってくれなかった

 周産期医療の質向上に関わる多施設共同研究に参加しているのだが、参加施設への研究費の配分としてまとまった金額を頂いた。現金ではない。金額を指定されて、この金額で欲しいものを申請せよということだった。ただし消耗品に限るとのこと。文房具とか事務用品とか、書籍とか。申請したものを研究本部が買って、こちらへ送ってくれるのだそうだ。

 なんだかなあと思った。これって世間様に胸張って申し上げられるお金ですかとちょっと聞いてみたかった。おそらく年度末の予算消化だろうとは想像がついた。街角のあちこちでアスファルトを掘ったり埋めたりしているのと同類の支出。新生児搬送でその舗装の継ぎ目に赤ちゃんをがたがた揺らされながら救急車を走らせているのだが、その予算消化の片棒担ぎに成り下がったような気がした。要るものは買う、要らないものは買わない、どうしても要るものが買えなければ金を工面する、頂いた金が余れば返す、真っ当なお金の使い方ってのはそういうものだろうと、私は思っていたから、余った金の使い道を探して無理に使い切ろうとするようなこの通知が、なんだか後ろ暗いものに思えた。

 でも聞いてみられたりしたら、聞かれた方はきょとんとするんだろうな。今に始まったことじゃなかろう。単年度予算の研究費を運用しておられる研究者の皆様なら、その何が悪いんだと仰ることだろう。あいにくと不勉強な私はそういうお金に触る機会がこれまでなかった。ぶしつけなのはご寛恕頂きたい。

 通知のメールを読んで、何とはなく嫌な気分がして、INBOXに放置していたんだが、そんなきれい事言って俺たちが使わなかったらどこか別口で消化されるんだろうとも思った。それに俺たちが参加している以外にも世の中には多くの研究があって、たいていは単年度予算で、年度末には文房具を買っているのだろうと思った。俺たちばかりじゃないし、俺たちが止めたって日本国の支出の削減にどれほども寄与しない。こうして堕落するんだなと、ちょっと思った。

 思いつつ、それならiPadなんて買ってみたらどうだろうとも思った。金額は、iPadを4枚買ってお釣りが来るくらいだった。要るものは身銭を切らねばならぬとして、こういうお金は、身銭を切るほどの必然性は無いけどあったら飛躍的にステージが上がるもの、に使うべきなのだろうと思った。予想外の敵を倒してボーナスポイントをたくさん手に入れてダメージ限界突破の武器を買うみたいな。iPadはたぶんNICUに1枚あるだけじゃ機能を十分に発揮できないんだろうが、4枚を連携させたらいろいろ面白いんじゃないかと。まあ具体的な内容は若い者が考えるわな。

 で、申請してみた。iPad4枚。みごとに却下された。コンピューターですからいけませんと。そのメールを見ながら、いやコンピューターって消耗品でしょ?と、文房具でしょ?と、事務用品でしょ?と、ちょっと言い返してみようかとも思ってみた。2年前に買ったiPadに資産価値ってあるの? 医学書並みに腐るの速いでしょうよ。でも、そんなことを言われても向こうの担当者が困るだけなのも推測はつくのでやめた。ちょっと書きかけたメールを削除して、あらためて、文房具らしい品目をいろいろ考えた。

 結局のところは看護師達が熱心に書いている面会ノート用に、超高級の多色サインペン、ファーバーカステルのピットアーティストペンビッグブラシ48色とか、その他諸々の、それこそ身銭を切ってはなかなか買わないものを願い出てみた。折角の面会ノートにかすれたペンを使われても貧乏くさくて赤ちゃんの人生の始まりにけちがつきそうだし。

 科学技術立国なんたら理系離れがどうたらと、我が国の将来を案じる声もあるし、財政規律の立て直しなんて議論も真っ盛りだけど、年度末にあちこちで文房具はいいけどコンピューターは駄目ですなんて話をしているようじゃ、無駄の削減も科学技術の進歩もどっちも半端で共倒れだよなあ。